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闇の箱

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□ 『或る夜の出来事』 □

或る夜の出来事(番外編)

或る夜の出来事(番外編)




「これが、小夜子の行動記録です。日によって違いますが、だいたい午前二時から午前四時の間に、お部屋を抜け出していました」
 小夜子の深夜徘徊は、屋敷内の最新の懸念事項だった。
「徘徊が始まったのはちょうど三ヶ月前です。初めのうちは週に一、二回ほどでしたが、最近では毎晩のように寝台を抜け出していました」
 この屋敷にいる奴隷の女の子たちは、オークションで競り落とされたり、ご主人様のご友人の方が所有していたものを譲り受けたりと、ここに来るまでの事情は色々だ。けれどもみんな同じなのは、天然物、つまり普通の家庭で育てられた子だということ。生まれながらに奴隷として育てられた養殖物は不自然だと、ご主人様はお気に召さないから。
 なので、どれだけ出品前に研修を受けて来ていても、ご主人様の調教が進んでも、環境の変化に耐えられなかったり、現実を受け入れられなかったりして、どこかでこころに無理がかかって来る。食事を摂らなくなったり、自傷行為に走ったり、口数が少なくなって呆けてしまったようになったり。今回の事案と似ているが、夢遊病になった子もいた。そういった問題行動が見受けられた時に対処するのが、私の役目だった。
「まず脱走や反逆の可能性ですが、特に玄関や通用口、ガレージなどに特に近づいている様子はありませんでしたし、パソコンや電話などを使用することもありませんでした」
 奴隷の様子は、屋敷内の至る所にあるカメラで常に監視されている。そのうちのいくつか、寝室や調教部屋などのご主人様が主にプレイを楽しまれる場所の映像は、羞恥を煽るために奴隷たちにも公開されていたが、実際にはそんな数ではない。奴隷たちが知っているカメラの場所なんてほんの一部で、実際には玄関、ガレージ、食堂、リビング、トイレ、お風呂、倉庫、廊下、庭園灯、門柱、山の私道に至るまで、警備も兼ねて無数のカメラが設置されている。もちろん、私たちに与えられている自室も例外ではない。私たちにプライバシーなんて存在しないのだ。権利としても、実際としても。
 ただ、ご主人様は奴隷に与えたプライベートスペースを侵害したり、秘密を殊更暴いて悦に入るような方ではない。それらの映像は、メイドさんたちによって監視されている。男性なら奴隷の女の子の無防備な生活を観て、変なことを考えたりもするかもしれないが、女性ならばその可能性は少ないというわけだ。私たちは常に同性、あちらは女性で私たちは牝だけれど、によって監視され、管理されているのだった。
「最初は、ふらふらと十分二十分歩いては戻っていて、意図を掴みかねたのですが、ひと月後、五回目にリビングのバーカウンターでジュースを飲んでからは、それが定着しました。また、徐々に冷蔵庫に執着するようになり、冷蔵庫の前に座り込んで扉を開け閉めしていました。その時点で、反逆や脱走目的ではなく、精神的なケアが必要な事案だと判断され、メイドさんから私のほうに対処が一任されました」
 奴隷の行動で警戒するのは、ご主人様に危害を加えること。次に脱走、そして自傷などの問題行動だった。
 一番、警戒する時間は、実は閨の時間だ。なにせご主人様は、男性の急所であるペニスを、奴隷の目の前に差し出しているのだ。もし危害を加えようとしたら、咥えたときに噛み切ることなど簡単にできる、と思う。私だって、ご主人様の前に咥えさせられたモノは、何度噛み千切ってやろうと思ったかわからない。その危険がありながら、私たちを信頼して、ご奉仕させてくださるのだ。
 けれども、来たばかりで、セックスがまだ痛いだけの子には、そんなご主人様のお心はまだわからない。だから閨には常に何人もの奴隷が呼ばれる。ご主人様の寵を得るには一晩一人では足りないのも確かだし、先輩のご奉仕の仕方を見て学ばせる目的もあるけれども、新しい子が変な真似をしないように監視し監督しているのも、重要な理由だった。
 そして、その次が脱走だ。奴隷になった時点で、もう外の世界に居場所のない子がほとんどだが、誘拐されて売られたりした子は、逃げ出せば家に帰れると心のどこかでまだ思っている。そうでない子も、天気の良い日にひなたぼっこをしていて、庭に誰もいなければ、つい里心がついて、逃げ出そうとしたりする。そういう行動を起こした子は、厳格に対処し処罰しなければならない。
 そして、ご主人様からは、なるべくそういうことが起こらないようにしろと命じられている。ご主人様はお優しい方なので、自分が寵愛している奴隷が、自分の手を噛むようなことをすれば、たいそうお悲しみになるだろうし、裏切られたとお怒りになるだろう。
 私にしてみれば、こんないいご主人様に飼っていただいているのに、逃げたいという気持ちはわからないし、逃げようとしたならそれなりの処分があって然るべきだと思う。けれど、とにかくご主人様はお優しいので、そんなことをさせないようにと仰る。なので、物理的には警備が、精神的には私や他の先輩奴隷が、フォローするようになっているのだ。
「映像を観る限りでは、前にもあった夢遊病ではなく、意識ははっきりしているようでした。徘徊しなかった時の映像も調べてみましたが、夜中に目を覚ましている様子は三ヶ月より前からありました。夜中に起き出して退屈して、そのうち部屋を抜け出して散歩することを覚えたようです」
 小夜子の問題行動が早いうちから発見され、警戒されていたのは、深夜徘徊をするのが、ご主人様の寝室に召された時に限られていたからだ。自室に下がって寝ている時には、朝まで起きる様子もなかった。だから、ご主人様に抱いていただいたことを、不心得にも恨みに思って、ご主人様に危害を加える企てをしているのかと、警備は神経を尖らせていた。もしバーカウンターで刃物を物色するようなそぶりがあったら、即座に取り押さえられて、処分されていただろう。
「同室の涙衣にも話を訊かせて、私を含め年長の四人でそれとなく話をするようにしましたが、特に変わった様子はありませんでした。ご主人様には申し訳ありませんが、閨の際にも、三人には、小夜子のことを注意するように指示しておりました」
「そうか、なるほど」
 私の話を黙って聞いてくださっていたご主人様が、初めて口を開かれた。
「なにか、お気に障ることがございましたでしょうか」
「いいや。そういうわけではないが、香子や雛乃が、小夜子のことを気に掛けている素振りが、最近やけに目に付いたのでね」
「それは…。お気遣いをおかけして申し訳ありません。二人にはよく言っておきます」
 下手くそ。香子ちゃん、雛乃め…。
「いいよ。たいしたことではない。続けて」
「はい。ありがとうございます。そして、今月に入ってからは、毎日のように夜に部屋を抜け出していたので、早急な対処が必要だと判断し、昨晩、香子とともに現場を押さえました」
「そこで、話を?」
「はい。多少強引でしたが、すこし飲ませて、香子に口説かせたら大泣きして話し始めました」
「ふうん。何を?」
「色々と、溜まっていたようですが、まず…」
「いや、そうじゃなくて。何を飲ませたんだ?」
「え…。あ、はい。カクテルです。グラスホッパーを、少し甘めにして」
「前に私にも作ってくれたものかい?」
「はい…。あのときは失礼を…」
「いや、確かに私には甘かったけど、みんなはあのくらいが好きなんだろう」
「そうです、ね。みんなからは、けっこうねだられます」
「そうか。いいね。また今度、みんなで飲もう」
 ご主人様が笑いかけてくださった。嬉しい。こんなに優しいご主人様に、何も考えずに愛されているのに、いったいなにが不満だというのだろう、小夜子は。
「はい。ありがとうございます。…ええと、それで小夜子の証言ですが」
「ああ、それはいいよ」
 ご主人様は、鷹揚に手を振られ、私の話を遮られた。
「は?」
 書斎の執務机に座っていらしたご主人様は、お立ちになり、私の方へ歩いて来られた。
「ふたりで話して、小夜子の問題は解決しそうかい」
「は、はい。香子ちゃんも、昔はよく同じようなことで泣いていましたし…」
 動揺して、つい香子ちゃんと呼んでしまった。いけない。今は奴隷頭なのに。
「じゃあ、ふたりでよく話を聞いてあげて、みんなで労ってやりなさい」
「はい。もちろんです」
「小夜子は、買ってきたばかりだから可愛くて、無理をさせすぎたかもしれないな」
「そんな、とんでもない。勿体ないことです」
 ご主人様は悪くない。ご主人様のお心を受け止められない小夜子のほうが問題なのだ。
「うん。まあ、とりあえず今夜、私も話してみるよ。まだ寝てるんだろう?」
「はい、そのはずです。起こして参りましょうか」
「いや。泣いて二日酔いじゃあ顔も見られたくないだろう。寝かせてあげなさい」
「はい。ありがとうございます」
 ほら。こんなにも、私たちのことを気遣ってくださる。
「憂子にも、苦労をかけたな。ありがとう」
 そう仰ると、私の頭を撫でてくださった。
「と、とんでもないです。申し訳ありませんっ」
 褒められるようなことはできていない。昨晩も、香子ちゃんがいなければ、私だけではうまくいかなかっただろう。
「そうだな。今晩は、小夜子の話を聞いてやることになるが、明日は広島に泊まりだから、憂子がついてきてくれないか。あっちはそろそろ蠣が美味しいらしい。久しぶりに二人でゆっくりしよう」
「は、はい! ありがとうございます、ご主人様」
 お召しだ。それも一人で。久しぶりだ。嬉しい。思わず、両手を握りしめて、持っていた資料をくしゃくしゃにしてしまった。
「すまないね」
 そう言って、ご主人様は抱きしめてくださった。キスをねだりたいところだけれど、もうお出かけの時間だ。きっとキスだけでは済まなくなってしまう。それにもう車には、今日のお当番の子が待ってるんだから、一番上の私は、我慢しなくてはいけない。
「いいえ。朝のお忙しい時間に、申し訳ありませんでした」
「お前こそ、寝てないんだろう。三時過ぎから小夜子の相手をしていたのなら」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですから」
「私が行ったら、寝てなさい。…そうか、香子もか」
「はい…。香子ちゃんはまだ起きていると、思いますが」
「あいつにも、近いうちに何か美味いものでも食べに行こうと言っておいてくれ」
「はい。ありがとうございます」
 ご主人様の言葉だし、間違ったことは言っていないしはいないし、他ならぬ香子ちゃんのことではあるけれども、他の女のことを気遣うご主人様の言葉に、すこし水を差されたような気がしてしまった。香子ちゃんならこういうとき、私のことも一緒にと言ってくれるのかもしれないが、私はそんなに心が広くない。だからこういう役回りが向いているのかも知れないけれど。
「じゃあ、行ってくる。見送りはいいから、寝てていいぞ」
「いえ、玄関までお見送りさせてください」
 書斎を出ようと歩き出すご主人様の後ろに従って、私も歩き出す。
 ご主人様が部屋のドアを開けると、そこには香子ちゃんが立っていた。盗み聞きではないだろう。彼女はそういうことはしない。おそらく、私と小夜子のことを心配して、ご主人様がお怒りになりでもしたら、援護射撃をするつもりだったのかもしれない。そういうところが、かなわない。そして、私が香子ちゃんのことを、ご主人様の次に大好きなところだ。
「あ、おはようございます。ご主人様」
 寝てないとは思えない明るい声で、さりげなさを装って香子ちゃんが挨拶をする。ご主人様がそれに応える。香子ちゃんのことを労う。香子ちゃんが甘える。それを邪魔しないように、部屋の中で黙って聞いているのが、香子ちゃんへのお返しだった。私たちは誰にだって、ご主人様との時間を邪魔されたくはない。
「見送りはいいから、憂子と一緒に寝てなさい」
「はい。ありがとうございます。行ってらっしゃい」
 香子ちゃんが、ご主人様の言葉に素直に頷いて、抱きついて抱きしめて送り出した。手を振る香子ちゃんを見ていたら、出て行く機会を逃してしまった。
 ご主人様が廊下の角を曲がったのを見届けて、香子ちゃんが書斎の中に入ってきて、後ろ手で扉を閉めた。
「…おつかれさま」
 香子ちゃんが、そっと抱きしめてくれた。小夜子の涙と鼻水でぐしょぐしょになっていたネグリジェを脱いで、お風呂に入っていたから、シャンプーの匂いがした。私のとは違う、でも私の好きな匂い。
「香子ちゃんも。ありがと」
「あんな感じで、良かったかな…」
「良かったと、思うよ」
「ちょっと、やりすぎだったんじゃないかなあ…」
 香子ちゃんが肩を落として、私の肩に顔を埋める。
「ふふ、確かに。ちょっとはしゃいでたね、香子ちゃん」
「緊張してたんだよ…だからやり過ぎた…」
「でも、小夜子にはあのくらいで良かったと思うわ。あの子真面目だから。昔の香子ちゃんみたい」
「私、あんな感じだった?」
「ううん。香子ちゃんの方が優しいよ」
 私は、香子ちゃんの背中に回した腕に力を込めて、ぎゅっと抱いた。
「もう…。でも、ならいいかな。ね、覚えてた?」
「何を?」
「昨日、さよちゃんに言ったこと。あれって、昔、私が憂子ちゃんに言ってもらったことだよ。ひとりじゃないって」
「そう…だったかしら」
 そんなことを、言ったかもしれない。
「辛いことも泣きたいこともたくさんあるけど、ひとりじゃないって。初めて、一緒に寝たときに、泣いてた私に、憂子ちゃんが言ってくれた言葉。嬉しかったから、わたしずっと覚えてた。香子ちゃんがいてくれたから、私は泣かなくなった。だから、さよちゃんの泣きそうな顔見てたら、言ってあげたくなったの」
 そう、か。
「そう…。なら、良かったんじゃない」
「うん…」
 香子ちゃんの頬が私の頬をくすぐる。子猫のような愛情表現。
「ねえ、ご主人様もああ仰ってくれたから、一緒に寝ようよ」
「そうね…」
 正直、眠くはあった。ご主人様にも褒めていただけて、ちょっと気が抜けてきたし。けれど。
「寝るなら、ちゃんと寝ましょうね。昨日みたいなのは嫌よ」
「えー」
 やっぱりそうか。
「えー、じゃない。私も眠いわ」
 すりすりしてくる時は、甘えてくる時で、いつのまにかえっちになっていることが多い。実は、昨晩もそうだった。
 小夜子が動き出すのを待っている時、二人とも眠くなってきて、眠気覚ましにと突っつき合ったりしていたら、いつのまにかえっちになっていた。しかも香子ちゃんが寝ようとするから、私もちょっと意地になって攻めすぎて、軽くイかせてしまった。そうしたら逆効果で、疲れてがくっと香子ちゃんが寝てしまい、起こして連れてくるのに一苦労だった。もう少し手間取っていたら、小夜子がリビングから出て行ってしまうところだっただろう。
 だから、香子ちゃんが昨夜、ちょっとハイになっていたのは、私のせいでもある。
「それに、小夜子が起きる前に起きないといけないから、そんな暇ないわよ」
「ああ…そっか…。起きられるかな…」
 昨日の後で、小夜子が起きた後も寝ていては、小夜子に気を遣わせるか、あるいは侮られてしまうだろう。
「涙衣に頼みましょう。小夜子が目が覚めたら、起こしに来てもらえるように」
「うん。…でも、じゃあ、何もしないから、一緒に寝よ」
「はいはい…。じゃあとにかく部屋に戻りましょう。涙衣も探さないと」
「うん」
 私たちは抱擁を解いて、部屋を出た。
 長い夜が、ようやく終わった。




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Date:2011/12/22
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Thema:官能小説
Janre:アダルト

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