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闇の箱

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□ 『研修』 □

『研修』 07 ユーズド(13)

 戻ると、憂子ちゃんが泣いていました。
“help...help me,out of here...”
 泣きながら、日本語じゃない…英語? 英語で何かを呟いています。
“help me...I'm afraid of dark...help me,mom...”
 手首には手錠が掛かったままなのに、必死で空に手を伸ばして、何かを掴もうと…いえ助けを求めて手を伸ばしていました。
「ゆ、憂子ちゃん…?」
“help me,mom...mom!”
 足をばたばたさせて身を捩って、ぎしぎしと音を立てるほどに手錠の鎖を伸びきらせるほどに暴れても、拘束が解けるわけもありません。でも、それも憂子ちゃんは解ってないようでした。
「憂子ちゃん?!」
“m...mom?!”
「憂子ちゃん、どうしたの? ねえ?!」
 わたしは憂子ちゃんの側に駆け寄って、肩を掴んで暴れるのを抑えて、呼びかけました。
「憂子ちゃん!」
“mom...mom...?”
(マム…ってお母さん?)
 憂子ちゃんにはわたしのことがわかってないようでした。目隠しを外してあげました。
「ゆ、憂子ちゃんっ?!」
 目隠しを外した憂子ちゃんの目からは涙が溢れていました。目の焦点も合っていないようで、わたしのことも見えていませんでした。
「しっかり、しっかりして! 憂子ちゃん」
 わたしは憂子ちゃんの身体に肩を乗せて押さえて、顔頬を軽く叩いて呼び続けました。
「憂子ちゃん…ゆうこちゃん…」
「a...mo... え…か…こ…」
「ゆうこちゃん!」
 憂子ちゃんの目に、わたしが映りました。
「か…こ…ちゃん」
「そうだよ! ゆうこちゃん、だいじょうぶ?!」
「だい…じょうぶ…わたし…」
 憂子ちゃんの目が、探るようにわたしを見ました。
「戻ったら、泣いて叫んでて…」
「ない…て…た…」
 憂子ちゃんの顔は、涙と鼻水と涎とかでくしゃくしゃでした。ひどく泣き叫んでいたせいで少し痙攣しているのか、口から零れる言葉はとぎれとぎれでした。でもしっかりとした日本語の発音でした。
「うん、何か他の国の言葉で、叫んでたよ…」
「あ… mom...」
 憂子ちゃんは、まだぼうっとした声で、でも流暢な発音でそう言いました。
「うん…。…お母さん?」
「ya... …うん」
「お母さん、外国の人だったの?」
 思えば、ここに来てから“お母さん”なんて言葉を人と話すのは、これが初めてでした。
「ううん…。たぶん、日本人…どっちも…」
「そう、なんだ…」
 たぶん、という言葉が気になりましたが、訊いていいのだろうかと迷っていると
「たぶん…」
 憂子ちゃんが自分で、その言葉を繰り返しました。
「たぶん…?」
「おぼえてないの…よく…」
 憂子ちゃんは、覗き込んでいる私の目を見て、言いました。
「こどもの頃に、いなくなっちゃったから…」
「いなく…ごめんなさい」
「ううん…。いいよ」
 憂子ちゃんはゆっくりと首を横に振って、黙ってしまいました。

 しばらくして、憂子ちゃんが左手首を持ち上げました。
「ねえ…これ…」
「あ…うん。外す、外すから…待って…」
 わたしはベッドの脚の元に放ってあった鍵を手を伸ばして探り当て、憂子ちゃんの手首を取って、手錠の鍵を外しました。でも、両腕が自由になったのに、憂子ちゃんは万歳をしたままでした。
「…憂子ちゃん?」
「香子ちゃん…きて…」
 手を上に伸ばして、覗き込んでいた私の後ろ頭を撫でてくれました。
「うん…」
 わたしはベッドに上がって、さっきと同じように憂子ちゃんの上に覆い被さるように四つん這いになりました。
「ごめんね…憂子ちゃん…」
「怖かったよ…」
「ふぁっ…」
 憂子ちゃんの両腕が私の頭に伸びてきて、私の頭は抱き寄せられました。いきなり押しつぶしてしまわないように、そおっと憂子ちゃんの身体に降りました。汗ばんでいた憂子ちゃんの肌は冷たくて、でもそれ以上に熱かったです。
「暗いの、だめなの…私」
 鼻先がくっつきそうな距離で、憂子ちゃんがわたしのことを見つめています。
「え…?」
「こどもの頃、いろいろあって…」
 憂子ちゃんとは同じ部屋なのですが、そんな素振りを見たことは一度もありませんでした。
「気づかなかった…」
「…上の部屋には、枕元の明かりもあるし、月明かりも入ってくるし、庭の明かりも見えるから。それに、香子ちゃんもいるし…」
「え…」
「暗いとこでね、ひとりなのだめなの。たまに…夜もちょっと怖いときがあって、そういうときは、香子ちゃんのベッドにもぐりに行ってたんだ」
「そう、だったんだ…」
 わたしたちはその日の気分でひとりで寝たり一緒に寝たりしています。でも、どちらかと言えばわたしが泣いているのを憂子ちゃんが見かねて慰めに来てくれることが多かったから。まさか憂子ちゃんも、怖い、寂しい思いをしていたなんて、考えもしませんでした。
「わからなくて、ごめんね…」
「ううん。言わなかったから」
「……」
 そうは言っても、さっきの様子を見ただけでも、そうとう怖いんだろうってことはわかります。わたしにご主人様のお召しがあった夜とか、憂子ちゃんはひとりでどうやって過ごしていたのでしょうか。わたしでも、憂子ちゃんが部屋にいないときにはちょっと寂しかったというのに。そんなことを考えたら、少し気まずい気持ちになりました。するとそれを察した憂子ちゃんが、
「あ…」
 憂子ちゃんが両腕を絞って、わたしの頭を左肩に押しつけました。鎖骨にキスができるくらい近づきました。
「こどものころね…」
 憂子ちゃんの小さな小さな声が、耳のすぐそばで囁かれました。
「こどもの頃、お父さんとお母さんがいなくなって」
「うん…」
「それで、しばらく暗い部屋に押し込められてて」
「え…」
「その時から、真っ暗って駄目なんだ…」
「こどもの頃、って…」
「6歳くらい。たぶん、誘拐されたんじゃないかな。あんまりよく覚えてないんだけど」
「ろく…さい…?」
 わたしが6歳のときには、そんなことが世の中にあるなんてことは、想像もできなかったと思います。
「ほんとに暗くて、寂しくて、わけわかんなくて泣いてて…。そのうち外に出されて、外に出たらめちゃくちゃになってて…」
「めちゃくちゃ…?」
「後で聞いたんだけど、大きな津波があったみたいなの」
「津波…」
「その時にめちゃくちゃになって、誘拐どころじゃなくなって、売られたんじゃないかなと思うんだけど」
「そんな…」
 憂子ちゃんの声は、他人の話をするように淡々としていました。
「色んな所を慌ただしく出たり入ったりして、言葉が通じたり通じなかったりしたけど、しばらくして日本語がわかるおじさんが私を見に来て、その人に連れ出されて、日本に戻ってきたんだと思う。次のところはみんな日本語が話せたから」
「え…外国にいたの?」
「そうみたい。どこの国にいたのかはわからないけど、家の外では英語を使ってたのを覚えてるから」
「そうなんだ…。その人に助けてもらったの?」
「そうね。そこから売られて市場に立って、ご主人様に買っていただいたから」
「え…」
 それは、助けてくれたのではなくて。
「可愛い子を拾ってきて、売れるまで育てる。そんなところだったみたい」
「……」
 わたしはもう何も言えず、黙って憂子ちゃんの話を聞くしかできませんでした。

「でも私は、運が良かったのよ」
 憂子ちゃんの指が、私の髪をなんとなしに弄び始めました。
「その人の目に留まって、そこに移れたから良かったけど、あのままだったら、きっともう生きてなかったと思う」
「え…」
「他の子と一緒に入れられたりもしたんだけどね。その時の私よりちょっと大きい子は、もうお客を取らされてたりしたから」
「お客、って…」
「娼婦よ。その時は、もちろん何をするのかなんてわからなかったけど」
 娼婦…そんな…。
「だって、まだ…」
「いくつでも、牝は牝だから。ご主人様のお友達にも、ちっちゃい子を飼ってる方もいらっしゃるでしょ」
「う…うん…」
「そういうこと。珍しくないわ」
「そう…だね…」
 確かに、まだ手足も伸びきっていないような、お腹がぽこんと出ている幼児体型の子を、パーティーで見たことがあります。もちろん裸で、まるで小型犬のように首輪を付けられて四つん這いに歩いているのを。
「あの子たちは、ご主人様に飼われてるだけ、いいと思う」
「え」
「娼婦に気を遣うお客はいないから」
「……」
「娼婦は、一見のお客にどんなことをされるかいつもわからないの。それに、無理なことをして壊しちゃっても、お店に弁償すればいいだけだから」
「え…あぁ…」
 壊す…弁償…。
 まるで人のこととは思えず、物の話をしているようでした。もちろん、わたしたちも、ご主人様のお友達からはそんな風に扱われます。でもそれは実は、メイドさんたちから感じるような、骨董品扱いというのが、思いの外当たっているのかもしれません。どれだけ酷いことをされても、死にそうだと思っても、壊されるなんてことは、なかったのですから。でも…。
「部屋から連れて行かれた子が戻ってきたときには、おまたから血と精液が流れてて汗かいてて臭くて、足が閉じられなかったりしてね。気絶してたり泣き叫んでて、ひとりで歩いて来れなくて、裸のまま脇に抱えられて、そのまま部屋の毛布の上に放り込まれて…」
「そんな…」
「目を覚ますと、痛がって泣くの。言葉がわからなくても、血が出てるおまたを抑えて泣いてるからわかるの。だからとにかくすごく痛いことをされるんだって怖くて、次は自分が呼ばれるんじゃないかって、足音がするとすごく怖かった」
 それを聞いて、わたしも思い出しました。家がなくなって売られて、オークションハウスで「研修」を受けているときには、昼前になって「先生」が来るのが怖くてたまらなかったことを。
「戻ってきた子も、そのまま戻ってこない子もいたわ。戻ってきても、目が覚めなかった子もいたし、目が覚めてもおかしくなっちゃったり」
「おかしく…」
「ひとりでぶつぶつ言って返事をしなかったり、いきなり笑い出したり。自分の腕くらいの大きさのおちんちんをいきなり入れられて、お腹をかき回されたら、おかしくなっちゃっても不思議じゃないわ」
「うっ…」
「そういう子は、手と足を持って担がれて行って、戻ってこなかった」
 どうなったかは、言われなくても想像がつきました。
「だから私も、呼ばれたらおしまいなんだって思ってた。でも私は違ったの」
 憂子ちゃんの右手が、私の背中に降りて、撫でてくれました。
「日本語とちょっと英語ができたのと、日本人的な顔立ちだったから、普通に店に出すより、もっと高く売れるって見込まれたんだと思う。だから手も付けられずに、他に移されたの」
「そう、なんだ…」
「そう。だから私は売られて、奴隷になれたの」
「そう、なんだ…」
 それしか言えませんでした。

 感情のない言葉で憂子ちゃんが語るのを聞いて、わたしの目に涙が溜まりました。
 そのままわたしが黙っていると、わたしの髪を撫でていた手が動いて、顔を上げるように撫でられました。
「ねえ…今日…」
 憂子ちゃんの顔は相変わらず天井を見つめていました。
「私がぴりぴりしてたから、気を使ってくれたんでしょ?」
「…うん」
「ごめんね…」
「ううん…わたしが…、なのに…」
 勝手にわたしが何かしたいと思って、でもこんなことになるなんて。
「大丈夫だよ…ありがとう。新しい子が来ることも、誰かがいなくなることも、仕方ない当たり前のことなんだけど、やっぱりどうしても、ね」
「怖い…?」
「そうね…。ご主人様はいい方だから…」
「うん…」
 ご主人様は、間違いなくいい方でした。女の子を奴隷として飼う人のどこが良い人なんだとかいう意味ではなくて、奴隷にとってのご主人様としては、とてもいい方だったのだと、今でも感謝しています。
「そろそろ、終わったかしら…」
 憂子ちゃんがかすかに首を上向けました。天井ではなくて、その上にあるご主人様の部屋を見ようとしたのでしょう。
「アスカちゃん…」
 あのランドセルを背負っていた女の子は、痛がって泣いているのでしょうか。ご主人様の胸の中で。
「“アスカちゃん”ね…」
 その声には、やはり咎めるような響きがありました。
「憂子ちゃん…」
「わかってる。あの子が悪いわけじゃないし、私たちの新しい仲間なんだけど…」
 じゃあ、なんで、そんなに…。
「ねえ、香子ちゃん」
 憂子ちゃんが、わたしの方に顔を向けて、目を合わせてきました。
「…なに?」
「あなたの本当の名前は、何ていったの?」
「え…」
「お父さんとお母さんから付けてもらった名前」
「うん…でも…」
 それは、ここでは…。それに、もう…。
「今だけ。教えて」
 憂子ちゃんの声の響きが強く、真剣なものになりました。
「うん…」
 わたしの、名前。十数年間呼ばれていた、わたしの。
「わたしの名前は、石井未来、です。石の井戸に、未来って書いてみく」
 昔、クラス替えをしたばかりの時のように、緊張しました。
「石井、未来…。未来…みく…」
 憂子ちゃんは、わたしの名前を、口の中で転がすように何度も呟いてくれました。
「みく…いい名前ね…とても…」
 憂子ちゃんの口元が、ちょっとだけ微笑みました。
「あ、ありがとう…」
 褒められて、頬が熱くなりました。
「でも、やっぱりね」
 少し悪戯っぽい声で、憂子ちゃんが言いました。
「え?」
「そうじゃないかなって。だって、ね…」
「あ…うん。だよね。わかるよね」
「ご主人様のお考えになることだもの」
「わかりやすいよね」
「未来だから、カコなんてね」
「うん…」
 “初めて”の後、ご主人様に香子と付けていただいた時には、素直にうなづけはしませんでした。よりにもよってカコ、過去だなんて、それまでの自分を全部否定されたような気がしたからです。もちろん、それがご主人様の狙いだったのでしょうけれど。
「でも、いいな…。未来…香子…みく…カコ…」
 憂子ちゃんは、何度も繰り返していました。
「ね、憂子ちゃんの名前を…訊いてもいい?」
 それは自然な流れだったと思うのですが
「駄目」
 即座に憂子ちゃんから駄目出しをされました。
「えー…」
「というより、無理なの」
 憂子ちゃんが、目を瞑って笑って言いました。
「え…?」
「覚えてないの、名前」
 今、なんて。
「小さかったから…」
 憂子ちゃんは、瞑った目を腕で覆いました。
 その時わたしはわかりました。憂子ちゃんがアスカちゃんの名前を呼ばなかったのか、憂子ちゃんのやるせない気持ちが何だったのか。


 その後、わたしと憂子ちゃんは、もってきたオモチャで遊びました。ローションでべとべとになって、ローターで攻め合って、ペニスバンドで二人で気持ち良くなりました。
 夜が明けかかる頃にお風呂に入って、着替えてみんなのいる部屋に戻りました。みんな誰かと抱き合って眠っていましたが、私たちが戻ると、操さんだけは目を覚まして迎えてくれました。

「この子の名前は、雛乃だ。後を頼むよ、仲良くね」
 朝になってお呼びがかかって、隣の部屋に行くと、ご主人様がまだ寝ているアスカちゃん、いえ雛乃ちゃんを紹介してくださいました。
 ご主人様はそのままベッドから降りて、浴室に向かわれました。何人かが、お世話をするために付いていって、わたしは残る組に入りました。ベッドに寝ている雛乃ちゃんは、顔をしかめていました。夢で嫌なことを思い出しているのでしょうか。それともこれから先の不安を見ているのでしょうか。
 “飛ぶ鳥”から“雛”へ。飛ぶ羽をもがれたこの子はこうして、鳥籠のようなこの館で飼われることになったのです。




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Date:2010/03/04
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Thema:官能小説
Janre:アダルト

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