FC2ブログ
+

闇の箱

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


* 「スポンサー広告」目次へ戻る
*    *    *

Information

□ 『研修』 □

『研修』 02 カタログ

 黒井の元にその封筒が届いたのは、梅雨が明けた7月初旬の頃だった。

「“Kitty Agency Enterprise”か。今月はシンプルだな」
 黒井は分厚い封筒を手に取ると、印刷された企業名を読み上げ、感慨もなさそうに呟いた。
 灰色の封筒の表側には、企業名と連絡先、そして“子猫の里親になりませんか?”というキャッチコピーが印刷されていた。封筒を裏返し、筆立てからペーパーナイフを取って滑らせる。封筒の中から出て来たのは、分厚いカタログだった。それは、重厚な書斎机の上には似つかわしくない装丁のものであった。
「また、凝っているなあ…」 
 表紙には、愛くるしい三毛猫が、ぱっちりした瞳を輝かせてちょこんと座っていた。その表紙を見て、黒井は思わず口の端を緩めた。このカタログは、毎月違う企業名や装丁で、送られてくる。内容も千差万別である。先月は犬のカタログであり、その前はキッチン用品のカタログだった。しかし、間違いなく同じ“会社”から送られてきているものだった。

 黒井はそのままぱらぱらと頁を捲っていく。
 フルカラー印刷されたカタログには、子猫の写真が満載だった。ヒマラヤン、ペルシャ、シャム、アメリカン・ショートヘアー、白に黒に三毛と、様々な猫の写真と、血統や現在の飼い主などの説明書きが載っていた。
 
“血統書なし。ペルシャ。オス。家庭の事情で飼えなくなってしまったので、可愛がってくれる人を探しています。生後6ヶ月で、未だ去勢はしていません”

“血統書付き。アビシニアン。メス。生後10ヶ月。○○保険のCMにも出たことのある美猫です。少し臆病ですが、慣れると足にすり寄ってきます”

 最終頁には、保健所に連れて行かれる猫を救いたいという志と、里親になるにあたっての心構えについてなどが、編集後記に替えて蕩々と語られていた。
 
 これは、黒井がこのカタログを購読している意味とは、全く関係がなかった。人目をはばかる意味を隠しているだけだった。しかし、内容から装丁から、それはカムフラージュには充分すぎるほどの出来映えであった。おそらくは、この編集をした人間たちは、本当に助けを求めている猫がいると思い、心血を注ぎ込んで制作したに違いない。しかし、黒井にとってはそれはどうでもよかった。この“会社”の凝った趣向が好きだというファンが多いことも知っていたが、黒井はそうではなかった。何より黒井は動物が好きではなかった。ただ一種類を除いては。
 
 裏表紙にはDiscが添付されており、オンラインカタログからすぐに申込可能、と記されている。黒井はDiscを取り出すと、カタログと封筒をまとめて屑籠に投げ入れた。金のかかった印刷の立派なカタログだが、黒井が用があるのは、このDiscだけだった。
 黒井はPCを立ち上げて、Discを挿入した。ドライブが唸りを上げて、カタログの表紙と同じ猫の写真のメニュー画面が自動的に開いた。それを即座に終了させ、エクスプローラからDiscを開いていく。いくつかの階層を経て、アイコンイメージもない実行ファイルをダブルクリックすると、簡素なダイアログが表示され、IDとPASSを要求してきた。手早くそれを打ち込んで実行すると、画面が暗転した。

 『Welcome to Pussycat Agency Enterprise』

 カタログに記された企業名をもじったタイトル画面が表示され、続いて綺麗に着飾った女性の写真が現れた。赤いドレスに身を包んだ女性は、躊躇いなく美人という形容ができるほどの容姿であり、ミスコンテストのように微笑んでいた。しかし数秒経つと、写真の女性は、一糸纏わぬ姿へと変わっていた。その首にはただひとつ、黒い首輪が嵌められ、強烈な存在感を放っていた。首輪から伸びる鎖は、画面の外へつながり、姿を見せぬ主人に牽かれていることを物語っていた。

 オープニングが終了すると、メニューが現れた。
 
“商品一覧”
“今月の目玉商品”
“先月のハイライト”
“交流サロン”
“その他のサービス”

 黒井が“今月の目玉商品”を選択すると、画面が移り、新たに6つの項目が表示された。
 
“No.39807545 狭山いずみ 18歳 AAa”
“No.39807546&47 川口ひなた&陽介 12歳 AAb+”
“No.39807550 瀬戸あかね 16歳 AAA+”
“No.39807556 桜庭美鈴 22歳 AAa”
“No.39807563 アリシア・マリア・篠崎 19歳 AAa+”
“No.39807565 天童頼子 14歳 AAb+”

「AAA+だと?」
 滅多に付けられることのない最高の評価に目を惹かれ、黒井は迷わずその項目をクリックし、詳細情報が表示させた。
 そこには、“瀬戸あかね”についての全てが記載されていた。氏名、性別、年齢、生年月日、家族構成、係累、学校名などの履歴。血液型、身長、体重、スリーサイズ、カップサイズ、病歴などの身体的特徴。性格、趣味、特技、習い事、などの内面的特徴。あかねという人間を知るための情報が余すところなく記されていた。
 ざっと読み進め、黒井は、出品の経緯に目を向ける。

“某専門商社の経営者一族の本家の長女。実家が持つ商社の経営破綻に伴い、借金返済の為に、某金融機関の推薦を経て、弊社に入荷。初値は12億”

「瀬戸の娘か…」
 あかねの実家については、黒井にもいささかの知識があった。黒井の傘下にも同業の会社があり、商売敵だったからだ。黒井が手を回して潰しにかかった訳ではないが、結果として黒井の会社は随分やりやすくなったと報告を受けている。妙な縁を感じて、黒井はあかねの写真をまじまじと見つめた。
 不思議なことに、スライドショーされている写真は、どれも着衣のもの、しかも明らかな盗撮や、アルバムから剥がしてきたようなものばかりだった。このカタログに載るような商品は、性的玩具という用途を考慮されている。当然、全裸で艶めいた仕草をしている写真や、セックスの最中の写真、検品や調教の模様を撮影した写真などが入っているはずであった。
 訝しげに思ったものの、品質と研修実績の欄を覗いて、黒井は得心がいった。
「これは…いいな」

“あかね嬢は、正真正銘の「おぼこ娘」と言えるでしょう。出自は、明治の世から才色兼備の令嬢を輩出している名門××女学院。良家の子女といえども品格に欠けるようになって久しいこのご時世ですが、あかね嬢はその名に相応しい躾を受け、教養ある振る舞いを身に付けています。また、思春期以降の男性との接触の機会は極めて少なく、性教育の授業以上に、セックスについての知識は持っていませんでした。もちろん健康診断の結果、正真正銘の処女であることは確認済みです。コウノトリを信じていても可笑しくない少女を、牝に調教していく楽しみ。淑やかで慎み深い令嬢を、従順な奴隷に変えるという背徳的な悦び。足跡ひとつ着いていない処女雪を踏み荒らすという類い希なる体験ができることでしょう”

“弊社では通常、入荷した商品は細心の注意を払って検品し、品質を確認します。商品の向きによっては、事前に調整を施してから、市場に出品します。しかし今回のあかね嬢の場合は、その純朴さ、性に対する無知や未成熟さ自体が価値であると考え、それを最大限保つことを心がけました。なんと、あかね嬢の耳には、「奴隷」という言葉すら入っておりません。入荷から市場への出品までの調整期間も、彼女の教養や技能を試す試験を施すだけにしております。あかね嬢をお買い上げになった方は、一から奴隷の心得やセックスを教え込み、主人専用の肉穴を作り上げるという楽しみが待っています”


 黒井は、笑みを浮かべながら、動画のアイコンをクリックした。
 それは商品が入荷してから、現在までに施された検品や調整の模様を紹介するものだった。多くの場合は、奴隷としての根性や覚悟を植え付けられる調教風景。性奴隷としての価値を高めるための技術研修。性感開発が施術される模様などが収録されていた。

 しかし、あかねの場合は、写真と同様、そのようなものは一切なかった。教養を問う試験や、お茶を点てている様子、しっかりとしたテーブルマナーが身についていることを表す食事の風景などの映像だけが収録されていた。
 未だ幼さは残るものの、類い希なる美貌の片鱗を見せているあかねが、綺麗な装いをして、女性らしい立居振る舞いを見せている。その映像は、肌を見せたり媚態を演じたりするようなあからさまな色気がなくとも、女性的な魅力が発露していた。
 もちろんこの映像は、一般に出回ることなどない。この奴隷カタログの一部であり、商品の魅力を引き出して、高値を付けても惜しくないと顧客に思わせるためのアピールである。しかし、それだけでも充分、商品価値が見出せる映像となっていた。

 それにしてもあかねの映像は、色気がなさ過ぎるとも思えた。ありていに言って、清純派アイドルのイメージDVDのようでもあった。
 けれども、アダルトビデオとは別にイメージビデオの市場が確立しているように、あからさまに色気や淫らさを振りまくだけが価値ではない。そのような楚々とした女性の姿は、この牝をどのように淫らに躾けていこうか、という想像を逞しくさせて止まないからだ。
 和服を着込んで楚々とした振る舞いのあかねを見て、着物の帯を解いて、裾をはだけさせることを夢見ない男はいない。抹茶の苦みに僅かにしかめる顔を見て、その口の中に苦い苦い精を思い切り放ってやったらどんな顔をするのかと想像しない男はいないだろう。あかねは、それだけの魅力を放っていた。まるで磨く前のダイヤモンドの原石のように。

 黒井は、あかねが出品される競売の日の予定を確認するために、秘書を呼び出した。
 



* BACK
* NEXT
* 「『研修』」目次へ戻る
*    *    *

Information

Date:2009/06/17
Trackback:0
Comment:0
Thema:官能小説
Janre:アダルト

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback


+
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。